【 Waxy Journal No.2 “Maintenance” 】 | British wax-jacket market

【 Waxy Journal No.2 “Maintenance” 】

TOKYO BRANCHスタッフ廣田がワックスジャケットの歴史や魅力に迫っていく「Waxy Journal」。連載第2回のテーマは「ワックスジャケットのメンテナンス」。

ワックスジャケットに限らず、秋冬のメインシーズンを終えたアウターは汗など着用に伴う臭いや汚れがついてしまっていたりするもの。普通の洋服ならばクリーニングに出せば済む話ですが、ワックスコットンのジャケットとなると受け付けてもらえないこともしばしば……。
また雨風関係なくハードに使えるワックスジャケットは、シーズンを終えると生地のワックスが抜けたり、思わぬダメージを負っているなんてことも……。

実際そうなってしまったとき、どう対処するのが最善なのかとお困りの方も多いはず。

そこで今回は、弊店が行っているメンテナンスを徹底的に深掘りしていきます。



廣田(以下、「廣」):よろしくお願いします。

石井(以下、「石」):よろしくお願いします。

廣:石井さん、簡単に自己紹介を。

:えーっと、主にメンテナンスの工程管理や品質管理の統括をやっている石井です。本日はメンテナンス特集ということで……。

:そうですそうです。もうそろそろシーズンオフですし、店頭でも「バブアーやベルスタッフって夏の間、どうしておけばいいの?」なんて聞かれることも増えましたので、メンテナンスとかって困ってる方が多いのかなと。そんな中、うちのメンテナンスに興味を示していただくこともありまして、せっかくならご紹介できればなと。
  実際イギリスから到着したてのワックスジャケットって、結構古いワックスがハードに残っているものも多いですよね。

:多いですね。写真や文面だと伝えづらいと思うんですが、見た目の汚れに加えて昔のワックスの臭いは結構きつかったりします。
  ただ本当にハンティングで使ったり、バイク乗りの方が着てたのかなって思えたりするものもあって、そんなリアルな実用着としての遍歴なんかもヴィンテージのワックスジャケットの魅力の一つかなと思います。

:想像を巡らせるの楽しいですよね。
  ですがそのままだと、日常着としては難しくなってしまうのも事実です。

:そうですね。なので弊社では入荷したジャケットは全て1枚1枚状態を確認しながらクリーニングをしています。
  これにより古いワックスだけでなく土汚れ、強い臭いなどもかなりの程度除去できますのでうちの商品は基本的にクリーニング済みと考えて頂ければと思います。

:え!? 1枚1枚!? だって一度に100枚とか入荷してきますよね……?

:手作業です。ヴィンテージは、年代や生地の状態はもちろん、使用されてきた環境なども1枚ずつ違うので、個体ごとに適切な処置を行なっていくのが大事です。
  枚数が多いと時間はかかりますが、そこは知識と経験、そして気合です(笑)


入荷時のジャケット(左)とクリーニング後(右)
残っていた古いワックスが落とされ、コットンの目などが見えるようになっている。

:クリーニング前のテロテロ感もいわゆるヴィンテージバブアー感があってかっこいいですが街で着るとなると作業後のものはやはり使いやすそうですね。
この後はどんな処置を?

:次の工程はアイロン掛けです。主に長年の使用や、イギリスからの輸送、クリーニング作業の際などについたシワを伸ばしていきます。

:このアイロン掛けは意外と曲者ですよね。熱とワックスの相性があまり良くないので、ワックス落としをせずにうかつに当てると溶け出して裏地に移ってきちゃいます。

:そうですね。なので弊社では冷却の吸気付きのアイロン台を使っています。上からは温め、下からは急激に冷やすことで、生地底部の温度上昇を防げるんです。

:なるほど! これなら高温のアイロンを当ててもワックスが裏地へ溶け出したりせずにシワを伸ばせるってわけですね。

:クリーニングとアイロンでだいぶ生まれ変わるものですね。でもまだもう一手間あるんですよね?

:はい。あとはリワックスですね。この時点で臭いや汚れなどはクリーンになっているので商品として最低限のクオリティは達成されているんですが、クリーニングの工程をしっかり行うとそれに伴ってワックスも落ちるのと、そもそもクリーニング前からほとんど抜けてしまっている個体もあったりします。
  そういうワックスの抜けきったラギッドな風合いもかっこいいのですが、大人の着こなしをするにはちょっと主張も強いです。
  なのでリワックスは、ヴィンテージバブアーを日常使いしていただくにはマストな工程かと思っています。

:なるほど。見た目的な部分もそうですが、ワックスが入ることで防寒や防風の性能が高まったり、生地のもちも良くなったりしますもんね。

:そうですね。あとはしっかりとワックスが入った生地で着込んでいくと、いわゆるヴィンテージデニムみたいに “風合いが変化していく楽しさ” みたいなものも感じてもらえると思います。

:入れては抜け、抜けたら入れ直し、を繰り返して育てていくんですね。数年後どんな姿になっているかが楽しみです。
  たぶん読者の皆さんも、うちのリワックスって一番気になってるところだと思うので、早く見せてください!

:急に鼻息荒くなったな(笑)
  こちらです。

加熱したアルミ板の上でリワックスを行うことできじを均一に温め、
ワックスの浸透効率と均一さを上げている。

:おおー、鉄板!

:生地を熱しながらワックスを塗り込んでいくことで、馴染みがよくなるんです。これはそのための設備ですね。

:ダンボールで組み立てた箱とドライヤーを駆使して自宅でリワックスするハウツー動画を見たことがあります。

:もちろんその方法でも構わないんですが、鉄板を使うと生地に対して均一に熱が加えられるのでムラにもなりづらいと思います。
  早速塗っていきましょうか。

:溶かしたワックスをスポンジで塗っていくんですか。

:シーム(縫い目)の部分など細かい箇所はヘラと固形のワックスを使って溶かしながら塗り込んでいく場合もありますが、基本はこのやり方が一番ムラになりにくいですね。
  塗れている箇所とそうでない箇所がはっきり見えてしまうとカッコよくないので、みんなでいろんな方法を試して辿り着いた結論です。

:試行錯誤の結果というわけですね。
  そのブラシは何に使うんでしょう?

:その豚毛ブラシはワックスを塗布したあと、生地により馴染ませるために使います。ドライヤーで熱風を当てながら、押し込むように生地をブラッシングしていくんです。

:確かに、表面に浮いていたようなワックスがしっかりと生地に浸透していっているように見えます。

:そもそも生地は糸が複雑に織り込まれているものですし、その糸も無数の繊維を捻り上げて構成されます。その繊維の中にまでしっかりワックスを馴染ませないとワックスコットンの真価は発揮されないと思いますので、こうした二段構えの工程でリワックスをしてますね。



リワックス前(上)とリワックス後(下)
生地の色の深みだけではなく、保温性や防風性も高まる。

:やっぱりワックスが入ると見違えますね!

:ですね。さっき少しだけ見た目の話がありましたけど、色味のトーンが数段下がるので全体的に落ち着いた上品な印象になります。

:これだけ綺麗ならヴィンテージのやれた雰囲気なんかが好みでない、綺麗めの着方をされる方でも着やすそう。

:スーツやジャケットなんかと合わせてドレスシーンに使われているお客様も多いですからね。
  ちなみにリワックスしたジャケットですが、そのまま店頭陳列やご納品……なんてことはなく、ここから2週間ほど高温をキープする設備で寝かせることになります。

:2週間。これもやはり馴染ませるため?

:その通りです。実はこの時間が重要で、2週間の間高温をキープした密室で寝かせることによって繊維の奥に浸透したワックスがしっかりと生地に定着してくれます。塗ったばかりのときはややベタつきもありますが、この工程でワックスが完全に馴染み、ベタつきもかなり軽減されていきますね。

:なるほど。ベタつきはワックスジャケットを使っていく上でのネックになる方も多いと思うので、嬉しいポイントですね。
  ただ、さすが専門店というか、これを自宅で真似するのはかなり難しそうですね。

:もちろんご自身でリワックスに取り組んでいただいて、より深い愛情を注いでいくのも素敵です。ですが手間も大きいですし、納得のいく仕上がりにならないなんてこともあるので、私たちに任せていただくっていう選択もありかなと思います。
  それぞれにストーリーや愛着がある洋服ですので、大切にお預かりさせていただき、また秋ごろに楽しんでいただけるようになれば嬉しいですね。

リワックスの説明に熱が入る石井(右)と興味深く聴き入る廣田(左)

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