【 Waxy Journal No.1 “Belstaff” 】
新連載「Waxy Journal」ではTOKYO BRANCHスタッフの廣田がワックスジャケットの歴史や魅力などにBWJMならではの視点で迫っていきます。
記念すべき初回は「Belstaff(ベルスタッフ)」。ワックスジャケット好きならばみなさんご存知のブランドですが、実際に「どんなブランド?」と改めて聞かれるとクエスチョンマークが浮かぶ人も少なくないはず。
今回は年代ごとのディテールの移り変わりにスポットをあて、ベルスタッフの魅力を紐解いていきます。
廣田(以下「廣」):本日はよろしくお願いいたします。
山岸(以下「山」):よろしくお願いします。
廣:さて今回ベルスタッフと言うことですけれども、そもそもベルスタッフってどんなブランドなんでしょう?
山:1924年にイギリスで始まり、世界で初めてワックスコットンを開発したブランドとしても知られています。あとは革命家のチェ・ゲバラも愛用していたブランドで、50年代の南米大陸横断の際に着用していたエピソードなんかは有名ですね。
廣:なるほど。こういう言い方が正しいかは分かりませんが、由緒正しいブランドというわけですね。ベルスタッフを取り扱い始めたのはどういう理由や経緯があったんでしょうか?
山:名前にもしているブリティッシュワックスジャケット、バブアーはもちろんですけど、やはりベルスタッフも避けては通れないブランドだからです。
廣:イギリス的にも切っても切れない関係性があるってことですか?
山:イギリスのカルチャーの一つとして根付いているモーターサイクルスポーツを考えていく上で、ベルスタッフは非常に重要な位置付けにあるんです。
廣:なるほど。当時から着られていたものとしてはポピュラーで、実用的な背景と歴史があるブランドと言うことですね。
山:その通りです。
廣:ところでバブアー のインターナショナルとベルスタッフのモーターサイクルジャケットってやっぱり違いがあるんでしょうか?
山:インターナショナルの方が骨太な印象で、ゆったりめと言うかやや丸っこいシルエットをしています。対してベルスタッフの方はよりファッショナブル、イギリス繋がりで言えばルイスレザーのようなスタイリッシュさがあります。
廣:んー、確かにインターナショナルにはどことなくカントリーっぽさも感じられますもんね。
早速ですが、実際にジャケットを見ていきたいと思います。
廣:これはいわゆるチェッカーフラッグですか。
山:はい。50sの古い物です。まだベルスタッフの特徴も出ていない時代の物で、より普遍的なかたちをしています。
廣:普遍的……。あ、これ、丸胴なんですね。
山:そうなんです。技術的な高さはもちろん、結構コストをかけて作ってるんです。一枚で仕立ててあるのでシルエットも特徴的ですね。けど縫製は所々粗があったりします(笑)
廣:そんな隙もまたブランドの魅力ですね。
そう言えば、ボタンは乳首凸スナップじゃないんですね
山:そうなんですよ。外れにくくて固めです。バイカー仕様としてより丈夫にしているのかもしれないですね。
廣:その辺りも実用ベースで作られているんですね。ファッション的にも、乳首凸スナップより武骨な印象がします。
この年代特有の特徴ってありますか?
山:特徴がないのが特徴です(笑)
この年代はルイスレザーとかモーターサイクルジャケットを作っていたどこのブランドも大体このかたち。
廣:インターナショナルの誕生が1936年だから、つまりモーターサイクルジャケットのデザインはバブアーで完成されていたってこと?
山:そう考えていいと思います。当時既にモーターサイクルジャケットのデザインはクラシック曲のような著作権フリーみたいになっていたようです。バブアー がモーターサイクルジャケットと言う一つのカテゴリを作り上げたと言えますね。
これは余談だけど、バブアー の80sくらいの昔の広告に「Often copied, never equalled.(しばしばマネされるが決して同じではない)」って言う面白いのがあります。
廣&山:(笑)
廣:50年代はインターナショナルをベースにした普遍的なモーターサイクルジャケットの時代ということですが、いわゆるベルスタッフらしさみたいなものが見られるようになるのっていつ頃なんでしょう?
山:ベルスタッフのモーターサイクルジャケットが「らしさ」を確立していくのは大体60年代です。
廣:なるほど。昔から古着を見ていて、「すごい男らしい」「かっこいいな」って思うのはこのかたち。肩のパッドにエルボーパッチなんかも男心がくすぐられるディテールです。そう言えば、この有名なタグに描かれるサミー・ミラーというのはどんな人物なんでしょうか
山:本名はサミュエル・ハミルトン・ミラー(1933〜)。マン島レースの英雄ですね。その活躍から神様と称されていたみたいです。
廣:神様……すごい。実際に彼が着用していたんですか?
山:60年代くらいから愛用していました。サミー・ミラーは現在も御存命ですが、今もまだトライアルマスターを着てバイクに乗ってらっしゃるみたいです。
廣:それはかっこ良すぎますね
山:彼のようにかっこよく歳を重ねたいですね。ちなみに彼が愛用するようになったこの年代のトライアルマスターはプロダクトとしても面白いです。シルエットも細くなり、よりすっきりしています。
廣:50sよりも強調された感じですね。
山:さらに着丈も長くなっています。
廣:ほう、これはなんでなんでしょう?
山:定かではありませんが、バイクのスタイルが変わって、前のめりのスタイルからハンドル位置が変わったりしたのかなと思っています。
廣:なるほど。やはり文化的な背景との結びつきがデザインの細部にも影響するんですね。
山:そこはビンテージの魅力ですよね。当時の時代の空気感や社会情勢なんかが洋服に反映される。
他にも細部がより洗練されて、ポケットの形の変化でよりスタイリッシュな見栄えになっていたり、アームもより立体的になっています。
廣:おーなるほど。着た時のフィット感やハンガーにかけた時のシルエットなんかも全然違いますね。
ベンチレーションの鳩目も焼肉のあれみたい。
山:網ってこと?
廣:ええ。
山:あー確かに(棒読み)
廣:……。
ちなみに裏地のチェックは50sからあんまり変わらないんですね。
山:そうですね。
廣:バブアー は裏地が結構変わるけど、ベルスタッフは安定している印象があります。
山:その辺りの安定感はモーターサイクル一本柱のブランドである背景かもしれないですね。
廣:なるほど。このあたりもブランドの特色ですね。お、ジップはライトニングジップなんだ。
山:小洒落てますよね。
廣:この微妙な湾曲も武骨でかっこいいんですよね。
山:名ジップと言っていいディテールですね。
焼肉の網らしいベンチレーション(左)とシンプルかつ武骨なライトニングジップ(右)
廣:さて、最後は80年代ですが、どこが変わったと言うか全体的にすごく引き締まった印象がありますね。
山:そうですね。この頃になると、それこそレザージャケットのような洗練された印象がより顕著になります。
廣:胸ポケットの角度も斜めから垂直に変わりましたね
山:そうですね。これもかなり大きな変更点。
ボディも前左右、後ろの三枚になりました。デザインも全体としてミニマルに。ベルトのステッチも両端だけにしていることですっきりした印象になっています。
廣:面白いなぁ。80sと言えばバブアー はワラントを獲得して、カントリーやアウトドアのブランドイメージを確立していく時代ですが、ベルスタッフはモーターサイクルジャケットの道をひたすらに突き進んでいく。
山:そうですね。この辺りの時代だとベルスタッフは既にファッションブランドとしてのビジョンを持って明確に舵を切っていたのかもしれない。
廣:なるほど。
山:その甲斐もあってか、80sはシンプルかつ余分な主張がない服なのでとても合わせやすいですね。ファッション的に楽しむならこの年代がベストという声も多く聞きます。もちろんベルスタッフらしさを味わうならやっぱり60s。イギリスのカルチャーを語る上で欠かせないモーターサイクルジャケットとして普遍的なフォルムを楽しんでいただくなら50sがいいですね。
廣:モーターサイクルジャケット、奥が深いですね。
ちなみに、どう言う着方がおすすめとかありますか?
山:ベルスタッフは野暮ったく着るよりもちょっとカッコつけるくらいがちょうどいいと思いますね。
廣:レザージャケットみたいにソリッド的な着こなしでしょうか。
山:そう思います。
あとはイタリアっぽく足首出してローファーとかと合わせたり、鮮やかな色味のニットなんかを差し込んでも素敵です。
廣:バブアー よりもスタイリッシュな印象がある分、着こなしの幅がより広くて、洋服としてまた違った角度からとても面白いですね。着方やスタイリングに応じてしっくりくる年代が違うのも、自分に合った1着を探す楽しさがあります。
山:そうですね。モーターサイクルジャケットというとインターナショナルのイメージが先行しがちですが、ベルスタッフもバブアーとは違う角度で魅力の詰まった服作りをされているブランドだと思います。
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